ずっと一緒
「マーモン〜、居る?」
コンコン、と、軽いドアをノックする音がした。
すると中から、
「…?入って良いよ。」
と、まだ幼げな男児の声が返って来た。
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「お邪魔しまぁす♪」
入って来た少女、もといは、おそらく着替えたばかり。
理由は、服が清潔で有りながら、血の臭いが拭い切れていないから。
黒ずくめのコートに、室内にも関わらずフードを深々と被った
未だ小さな少年---マーモンは、彼女が入って来たのを気配で確認すると、声をかける。
「…任務から帰ったばっかり?」
「うん、そんな所かなw」
だって早くマーモンに会いたかったし?なんて可愛いことを言い出した。
照れ隠しのつもりで、一言。
「何でも良いけど、僕の部屋を血の臭いで充満させないでね?」
部屋の改装にいくらかかると思ってるの?払わせるよ?って返してみた。
僕よりうんと年上なのに、意外にも僕より頭の回転が悪いらしく、真面目に考え始めた。
…いつもの事なんだけど。。
そろそろ慣れてもいい頃なんだけど、不覚にもこういう所も好きだと思ってしまう。
口には出さない、否、出せないけど。(直ぐ調子に乗るだろうから。)
僕もまだ1歳なのに…まずいね。
と、彼女が「あ、そうだ!」っと手を叩く。
こういう時、あんまりいい発想をしないのがなんだ。
「今度はなんだい?」
っと返すと、
「ポーカーしよ?一回でもあたしが勝ったら、なんか奢ってよ!」
だって。馬鹿だよね?僕が術師だってこと、忘れてるでしょ?
幻術って言う、完全無欠なイカサマって手段がある事を。ボロ負け決定だよ、良いの?。
っと、それ以前に話逸らしたね…バレバレだよ。(良いけど、別に。)
っと、言うことで彼女がテーブルを引きずって来て、
(途中で傷つくから持ち上げさせたけど)ポーカーが開始された。
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「ん゙〜……」
色気もクソも無い唸り声が響く。(自分でそう思える位酷いんだ;)
未だ明るかったはずの窓の外は、既に真っ暗だ。
「…また負けたぁぁ!!もぅ一回!次は、次こそはっ!!!」
「………」
一人で意気込む。多分マーモンは馬鹿みたいとか思ってる。うん…きっとそうだ!(ム、まさにその通りだよ。)
それでも粘ってるのは、もっとマーモンと居たいから。(勝ったら言って上げるのに。(ぇ)
「今何回目か分かってる?」
そんな事を考えてると、やっとリアクション(?)が返って来た。
「忘れた。」そう返すと、マーモンは、ため息混じりに
「73回目が終って、次で74回目だよ。…もう疲れた。」
「へぇ、数えてたの?!すごーいww」
って言ってみたら、そんなので誉められても嬉しくないよって返された。(冷たいなぁ;)
実は、途中からマーモンのご要望でお金の駆け引きまで始まってしまっていたので、
勝ち逃げされたら奢って貰う所か、買い物の一つも出来なくなってしまうのだ。(そんなの絶対嫌!)
そこで、
「そんなぁ〜!」
っと抗議して見るも、マーモンの「眠い。」で呆気なく却下された。
むぅ…と、剥れて暫く考えていたら、"有る事"を思い出した。
それは、任務に行く前日にベルと話した時の事。
○○○○○○○○○○○○○
『あれ、〜!』
『ぅん?』
廊下を歩いていると、後ろから呼び止められる。
振り向くと金髪にティアラ、ベルことベルフェゴールが立っていた。
『ベルじゃん!生きてた?』
『うしし、そんな簡単に死なねぇって!』
『だって俺王子だもん?』
『うしししし!そ、当たり♪』
他愛の無い会話をしていた2人だったが、不意にベルが、あぁ、そうだと切り出す。
『うしし、さぁ、マーモン好きなんでしょ?』
『?!な…なんで?///』
行き成りでオドオドするを視界の端に捕らえつつも、(見てるんだか見て無いんだか前髪で解からないが)話を続ける。
『何処が良いの?相手一歳児じゃん。(ぜってぇ俺の方が良い!)』
『何でって…ヵヮィィから、とヵ…?////』
視線を泳がす私をふぅん…っと見やり、直ぐにまた言葉を返して来た。
『が好きでも、マーモンはわかんないよねぇ〜?』
?マークを浮かべる私を他所に、ベルは話を続ける。
『だって10以上歳が違うんだもんなぁ、マーモンももっと可愛い子見つけて来そうだし。』
そこでやっと主旨を理解した私がうっ…っと息を飲むのを尻目に、ベルは私に止めを刺した。
『マーモンが結婚出来る歳には、もうオバサンだし…!うししし!』
馬鹿笑いを始めたベルに、必死の抵抗を試みた。
『……に…しは………もん…』
『?』
『愛に歳は関係無いもん!!!!!』
それを聞いたベルは、またニィィっと音が付く位の三日月型に口角を引き上げて、
『がそうでも、マーモンがどんな顔するのかなぁ〜?うししししし♪』
元々自信に欠けていた意見に対する、それなりに説得力のある意見に、返す言葉が見付からなくなってしまった。
浮かんでは消え、浮かんでは消える反論の台詞の中に、心の声が入り混じって来る。
---確かに私から好きって言った事は有るけど、言って貰った事は、無い………。
喪失感が大きくて、取り合えずその場を後にした。
○○○○○○○○○○○○○
「マーモン。」
「!…何?」
っと、沈黙が破られる。
あからさまな返答に、はやっぱり好いて貰えてなんか居なかったんだ、と思った。
…そして。
「マモンなアルコバレーノ!!!!」(マモン=貪欲(らしい)(ぉぃ))
「な゙・・・っ?!!」
「私なんかどうでも良くてむしろ鬱陶しくてしょうが無かったんだよね?!そうでしょう?!!そぅそうだよ!
私なんかそのうちオバサンになっちゃうんだ!!マーモンの…マーモンの、馬鹿ぁぁあぁ!!!!!」
何処で息継ぎしているのかと言うほどの剣幕でそう叫んで、は廊下へ飛び出した。
そのまま兎に角、走る、走る、そしてこれでもかと走る。まだ、走る。
これで一体何個目か、という角を曲がって、漸く止まった。はぁはぁと息を切らす。
「あぁぁ…冗談のつもりだったのに。」
顔を上げると、ベルのニタニタした顔が、見下ろして居た。
「入る?」
っと、ドアを指すベル。そこは、ずばりベルの自室のドア。
頷くと、「うしし♪どーぞ、御姫様w」そう言ってドアを開けてくれた。
泣きじゃくりながら愚痴れるだけ愚痴ると、
それを面白くなさそうにも見えれば、時折楽しそうにも見える不思議な顔で聞いているベル。
「それでね、それでね?」
「うん。」
「しかも、だよ?」
「うしし、へぇ、それは酷ぃ…??!!!」
ドバキャッ!!!
突如、凄く鈍い音を立てて、何かが吹っ飛んだ。
飛んで来たのは他でもない、ベルの部屋のドアだ。
「?!!!!」
吃驚仰天、固まっている。
「こんな所で何してるの?」
そこに、未だ幼い男児の声が響く。もちろん、ドアの無くなった部屋の入り口から。
「うしししししし!マーモン、遅いよ。話し聞き疲れた♪それと、俺の部屋のドア、ちゃんと修理してくれるよね?」
と、とても疲れてなど居ないような声音で言ってのける。
「ム…その位のお金、持ってるでしょ?自分で新しいのでも買いなよ。」
「うしし、だって俺王子だし?」
「……知らないよ。」
そう言ってマーモンの視線がベルから外れる。その視線の行き先は、勿論。
「戻るよ。」
何時の間にかベッドに腰掛けるの目の前に来ていたマーモンは、そう言っての手を取る。
が、次の瞬間。
パンッ
っと、乾いた音がベルの部屋に響いた。
「ぇ…?」
「ありゃりゃ…w」
そこには、ベッドの上に立ち尽くす、息を切らして泣き腫らした顔のと、
それと、自らの赤くなり、その上ジンジンの痛む手の甲とを見比べこれまた唖然とするマーモン、
そして仕上げには、それをにやにやと効果音が付く程の笑みで見やるベル、が、居た。
「マーモン、そんな、優しくしたら、私、諦め付かなくなっちゃう…から……」
また泣きそうになる。それを少しの間見上げていたが、ふとマーモンが口を開く。
「放ってなんか置かないよ。」
「…え?」
「諦めて貰ったりしたら、困るからね。」
「だって…っ!」
「勘違いも良い所だよ。僕は、君が僕を好きだと想っているよりも遥かに上回るほど、君を愛してるんだから。」
「…っ!!/////」
「うしし、ガキが良く言うよ。」
「僕は君がオバサンになろうが、愛しつづけられるだけの自信は有るよ。
だから…ま、未だ結婚とか出来ないから、後17,8年位待ってて・・・それから、ずっと一緒に居て欲しいんだ。」
「…うん。/////」
返事を聞くや否や、口元を緩め、の肩にチョンと乗っかって、そぅっと彼女の頬に小さな唇を宛がう。
「ひぁっ?!!/////」
飛び上がるを笑って見ているマーモンと…ベル(ベルはちょっと寂しそう)。
その後、とマーモン、2人が一緒に居る時間が増えたのは、言うまでも無い。
ベルは、ちょっと妬いてたりして…。
でも、ヴァリアーの日常は、いつも穏やか。
理由は、皆が皆、今の生活にそれなりの幸福感が有るから。
ずっと一緒。
この愛は、死のうが、別の世界に生まれようが、何があってもずっと変わらないよ。
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