抱擁



さん、遅かったね」

「だ、だって、急に呼び出すから…」

「文句でも?」

「い、いえ」



必死に息を整える。

ここは応接室。
やわらかそうな革張りのソファには、この学校の風紀委員長が座っている。



「今日の仕事は学校の見回りだよ。君は北校舎」

「あの、またですか?」

「風紀をみだす奴は許さない。群れてる奴がいたら噛み殺してよ」



それは雲雀さんだけの嗜好じゃ…

言いかけて口をつぐむ。
この人にはさからえない。


「それじゃあ頼むよ。言っても聞かない人がいたら僕に伝えて」


そう言って雲雀さんは学ランをはおる。

わかりましたと恐る恐る返事をして部屋を出た。













わたしが風紀委員の仕事をするようになってから3ヶ月。
どうしてこんなことになったのか今でもよくわからない。

他にも風紀委員はたくさんいるのに、なぜかわたしだけよく呼び出される。


最初は気に入られたのかな?とか楽観的なこと考えてたけど…
雲雀さんの人使いは荒い。

どうしてわたしなんですか?と聞いて

「使いやすそうだから」

の一言で返されたことがある。


やっぱりいいように使われてるだけなのかな…

そう思うと悲しい。

いっしょに仕事をしてきて、いろんなところを見てきた。
いつも勝手で、急に呼び出されたりするのに、会うたびに惹かれてる自分がいる。








北校舎の隅にたどり着いた。
ここではよく不良がタバコをふかしている。


「いないといいんだけど…」


そんなわたしの願いも叶わず、男子生徒が4人。

あーやっぱりやるしかないよね。
ちゃんと注意しないと、わたしが雲雀さんに噛み殺されちゃう。

毎回この瞬間緊張する。
すっと息を吸い込んで怒鳴った。


「風紀委員です!タバコは禁止ですよ!!」


案の定男子生徒は驚いた顔をした後、ヘラヘラと笑う。


「なんだ、女かよ。雲雀じゃねぇなら怖くないし」


そう言ってわたしのまわりをぐるりと囲んだ。

こ、これって、ちょっと危ないかも…



「おまえもしかしてあいつの女か?いっつも一緒にいるもんなぁ」


一番背の高い男がわたしの顔に煙を吹きかける。


「あんな怖い男のどこがいいんだ?俺たちが可愛がってやるよ」

「俺ら雲雀に恨みあるしな〜雲雀が知ったらどう思うかなぁ」


口々に好き勝手なことを言う。


「わたし雲雀さんの女なんかじゃありません!!
 そ、それに雲雀さんはただ怖い人じゃないと思います」

「まぁいいからおとなしく…」





ドカッ!!!


鈍い音が響いた。
目の前に迫ってきていた体がドサッと下に倒れる。



「僕のものに何してるの?」

「ひっ、雲雀!?」


男子生徒達があわてて逃げ出す。
が、逃げられるはずもなかった。


「噛み殺す」


いつもより何倍も怖いオーラを放った雲雀さんが、トンファーをふりかざした。















「ああいう奴らはすぐ僕に言えっていってるよね」

「ごめんなさい」

「本当にわかってる?」

「は、はい!」


応接室で正座するわたしを、ジロッと睨む。


「あの…」

「なに?」

「助けてくれて、ありがとうございました」


雲雀さんがなぜか驚いた顔をする。
目線をそらしてぶっきらぼうに言われた。



「変な男に触られたらむかつくんだよ」

「…へ?」

「君ってはっきり言わないとわからないの?」



わたしの目の前に来た。


「さっき言ったよね?」


雲雀さんの腕にひっぱられた。
胸の中に、すいこまれるように入る。


「ひ、雲雀さん?」

は僕のものなんだから…誰にも触れさせない」


雲雀さんの腕にぎゅっと力が入った。
そっと、でもどこか力強い抱擁。


これって…夢?
突然のことに頭がまわらない。


やっぱり、この人にはかなわないな…

ほてって真っ赤になりながら思った。



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