最後にひとつだけ
持ち慣れない飛び道具。鉄と火薬のにおい。
腰のホルスターにさしてジャケットで隠す。
同じくそれを扱う獄寺だが、山本とは違い、調整の手つきは慣れている。
背中から抱きつくと、頭を思いきり銃の持ち手で殴られ、一瞬意識が飛んだ。
「痛てっ!」
「ばかか、危ねえだろ」
殴るのは危なくないのかと言ってやりたいが、もう一発殴られそうなのでやめた。
「離れろ。じゃま」
「冷てえのー」
腰に巻きついた手をはたかれるが、めげずにそのままでいると、あきらめたらしく獄寺はまた銃の調整を再開した。
「獄寺ー。また三日も会えねえんだぜ。ちょっとはイチャイチャしようとか思わねえの?」
「思うか。果てろ」
「三日で済みゃあいい方かもしんねえんだぜ?」
「あ?」
不意に離れた体温に獄寺は振り向く。
そのほおをつかんで瞳をのぞきこむと、亜麻色の中に映った自分がどんなに弱々しい顔をしているかがわかった。
「もし俺が失敗したら、死んじまうんだぜ?そしたらもう会えなくなる」
「……それで?」
「へ…?」
意外な返答に目を丸くする。獄寺はまた目をそらし、銃をホルスターにおさめた。
「俺はそんなやわな男にほれたつもりはねえよ」
そう言って時計を見る。もう彼の出る時間だ。
「俺はもう行くからな」
「ご…っ、獄寺!」
腕をつかむ。振り向きざまに胸ぐらをつかまれ、思考が働く前に唇が押し当てられる。
触れるだけの不器用なキスだ。かちり、と歯がぶつかる。
それでも、めったにない彼からのキスに、山本のほおがかっと熱くなる。
「ひとつだけ言っとく」
獄寺の顔も赤かった。それでも、瞳はまっすぐなまま揺るがない。
「お前が誰かに殺されるようなヘマしたら、俺はお前を殺す」
声も出ない。
獄寺は赤面しているのを隠すように手でおおい、部屋を出た。
足音が遠ざかっていく。それに不安を覚えなかったのは。
「はは…っ。矛盾してるって」
そんなおかしな言葉が、なによりうれしかったからだ。
「……死なねえよ」
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