みっともない




「みっともない」なんて言葉は
今の自分の為にあるような言葉だ



十代目の家からの帰り道。
俺は一つの想いを抱いていた。



そのときの俺は、まだ自分の気持ちに気付かないでいた。

『獄寺くんって山本のこと嫌いなの?』
『…は?』

いつものように、いつものメンバーで宿題をやっているときのことだった。
大方片付いたところで、山本が席をはずした。
十代目はそのときを見計らったように、小声で話しかけてきた。

『いや、獄寺くんって山本のこと睨んだり悪態ついたりするでしょ?
 だから、嫌いなのかなって…』

「そうに決まってるでしょう」とすぐに言えなかったのは何故だろう。
十代目が、山本のことを仲間として大切にしているからだろうか。
山本のことを悪く言って、悲しませたくなかっただからなのだろうか。
それだけでは…ない。
他にもなにか理由があるような気がした。

『そりゃまぁ……前より毛嫌いすることはなくなりましたけど』
『でも、まだなんかギクシャクしてない?獄寺くんが』
『そ、そーっすか?』
『うん、なんかね』

思ってみれば、以前よりも毛嫌いすることはなくなった。
けれど、その分意識している気がする。
意識?一体何を?
仲間として意識しているならば、ギクシャクすることもない。
ライバルとして意識しているのならば、もっと敵視しているだろう。
ならば、もっと他の理由。
それは何よりも大きな影響を与える、揺ぎ無い理由があるんだろう。

『異性を意識してる感じに似てる…みたいな』

その刹那、なるほどと納得してしまった。
その次の瞬間に、納得してしまったことに動揺した。

(なるほどってなんだなるほどって!?)

異性を意識するということは、恋愛感情を抱いているということだろうか…
恋愛感情という選択肢が出た時点でさらに動揺し始めた。

(あいつは男で俺も男で!俺はあいつが嫌いであいつは俺が…)
嫌い、なのだろうか。
山本は、俺のことを。
本当に、嫌いだと思っているのだろうか?
俺は、山本のことを…

『あ』

十代目が小さく声を漏らした。
その視線の先には…山本がいた。

『長くなっちまって悪い。電話かけただろ?そしたら親父から買出し頼まれてさー』
『大変だね、今日はもう終わりにしよっか?獄寺くんに訊きたいところは終ってるし』
『だな。獄寺もそれでいいだろ?』

会話が、遠くでしているような感覚だった。
俺はと言えば知らないうちに山本を凝視していた。
思い起こす、今までの自分の行動、言葉、気持ち…
それら全てから悟ったことは、一つ。

『獄寺?』

……ああ。

『な、獄寺も今日は終わりでいいだろ?』

ついに自覚しちまった。

『……そう、だな』

俺は山本が好きだった。



「…ありえねぇって…思ってたのにな…」

愛用のライターで煙草に火をつける。
煙草をふかしながら、ぼんやりとする。
男同士だし、俺はあいつのことを嫌いなはずだったし。
何よりあいつだってそんな気があるはず無い。
それでも自覚してしまったこの気持ちを抑えることは出来ないのだろう。
気持ちを否定することは出来ないけれど、この気持ちを伝えることはまだ出来そうにない。
なんて、情けないんだ。
なんて…

「…E disonorevole、か」


吐き出した言葉は、紫煙と共に消えた。


ーENDー

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みっともない=告白できずにいる自分という感じで
書かせていただきました。
初の獄山小説でした!
とっても楽しかったです。
読んで下さった方、本当に有難うゴザイマス!!





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