聞き耳
「山本って、好きなやつとかいるのか?」
騒がしい教室。
休み時間に入った途端、静寂という砦はすぐに壊される。
そんな人ごみの嵐の中、ふと耳に入ってきた会話。
目の前には、10代目もいる。
それなのに、オレの耳は勝手にその会話の先を追う。
「気になってるやつぐらいいるだろ?」
「んー・・・」
あの野球バカの山本が?
ありえねー。
そう思ってたのに、珍しく答えを濁す山本。
あいつなら、こういうことはっきり言いそうなのに。
(本当に・・・?)
「その反応、絶対いるだろ!誰だよ、相手!?」
「まじで山本!?なになに、このクラスとか?」
「えー、ショック!!だれだれ!?」
「ちょ、お前らうるさいって」
最初は少なかった人数が、増えている。
からかう男子や、少し恐いぐらいの気迫の女子。
多種多様の反応がそこにはあるが、そこに人が集まるのは、ひとえに山本の人格だろう。
おまけに、くやしいことに山本はかっこいい。
でも、
それだけではない、誰にも負けない魅力があるのだ。
だからこそ、山本の周りには、いつも笑顔が溢れている。
そして自分は、それを少し離れたところで見ている。
「や、だってさ、山本そういう話いつもしないじゃん」
「気になってたんだよな」
確かに山本の口からそういった話は聞いたことがない。
告白されていることは知っているが、付き合いだしたという噂もない。
(興味なんてないけど、・・・だけど)
「えー、じゃあどんなタイプか教えろよ」
「そうだよ!教えろ教えろ」
どうせ優しい女の子とか家庭的な女の子とか。
そんな辺りだろ?
山本の横に、ふんわりと笑う女子がいる。
そう思うと、何だかもやもやする。
なんだ、これ?
(・・・意味不明だ)
楽しいはずの10代目との会話が、全然頭に入ってこない。
それでもどうやら、10代目の話に相槌を打っている自分がいる。
笑っているけれど、笑っていない顔で。
何だか、ここにいたくない。
屋上に行こう。
次の授業は英語だから、フケても問題はない。
きっと閉め切ったこの空気のせいだ。
一服してこよう。
「山本の周り、すごいね。てか、獄寺くん、山本に好きな人いるの知ってた?」
「・・・すいません10代目、次の授業ぬけるんで言っておいてもらっていいですか?」
「それはいいけど・・・大丈夫?顔色よくないけど・・」
「だ、大丈夫っすよ!すみませんオレ、10代目を心配させてしまうなんて・・・!」
「そ、それはいいんだけど、体調には気をつけてね。最近、風邪が流行ってるみたいだから」
「はい、ありがとうございます!」
そうか、この感じは風邪をひいたのかもしれない。
(屋上よりも保健室の方がいいか・・・?)
まだ喧騒が広がる教室から、獄寺は出て行った。
「で、結局どうなんだよ?」
「うーん・・・なんていうか、猫?」
「猫?」
「最初は警戒心丸出しで、そこも可愛いんだけど、・・・けど」
だけど、一緒にいる時間が増えるたび、相手のことを知るたびに、もっと手に入れたくなる。
全てを自分のものにしたくなる。
もっと笑ってほしい。
もっと一緒にいたい。
想いは貪欲になるばかりで、いつかは君を傷つけてしまいそうで。
この気持ちが「恋」だというなら、きっとそうなんだろう。
「好きだ」
そう伝えたら、君はどうするだろう?
怒るかもしれない。
バカにするかもしれない。
呆れるかもしれない。
でも、ほんの少しの可能性があるなら。
たとえ同じ気持ちでなくても、少しでも君の心を僕で埋めることができたらなんて。
次の時間、フケるとか言ってたな。
屋上、か。
行ってみるか。
この声が、君に届けば。
この想いが、君に届けば。
「・・・・・意味わかんねえ・・」
この行方知らずの恋の道は、いったい何処へ続くのか。
*****
お互いがお互いの会話に「聞き耳」を立ててたらいいなあと思い書いてみました。
その後きっと山本は、持ち前のその「魅力」で、獄寺を手に入れたと思います。
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