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時よ止まれ




ねえ、考えた事ある?
もしこの瞬間この時が、止まってしまえたら。


いきなり僕が聞くものだから、ソファに座って僕の隣で大人しくお茶をしていたランボはぱちぱちと、目を瞬きさせた。
天気のいい気持ちいい夏の日。
外は暑いけどこの部屋の中はクーラーが効いていて、程よく涼しい。

「どうしたんですか、いきなり。」

不思議そうに、ランボが首を傾げる。
確かに、ついさっきまで隣で読書をしていた恋人がいきなりこんな素っ頓狂なことを聞いたら誰だってそう言いたくなるだろう。

「いや、さ。今読んでる話にそういうのがあったから。」
僕の手元には一冊の小説。
カバーがかけられて見えはしないけれど、表紙は淡い桃色、それに金で縁取られた可愛い文字。
きっと僕が読むだなんて、昔からの知り合いが見たら考えもしないような本は、少し前に恋人のランボから贈られた、いや押し付けられたものだった。

正直貰った瞬間破り捨ててやりたくなるほど、僕の趣味には合わない本だったけれど、ランボがあまりにも嬉しそうに笑って進めるものだから、つい受け取ってしまった。
読まないで、とりあえず貰うだけは貰ってしまっておこうと考えていたのだけれど。

「あの本、読んでくれましたか?」
今日ランボがやって来て、そう問うものだから。
書類の下に埋まっていた本を無理矢理引っ張り出して、ドカッと彼の隣に腰掛けて読み始めた、というわけだ。
読み始めの頃はやっぱりまだ読んでいなかった、と恨みがましい視線をよこしていた彼だったけれど(見てはいないけどそう感じた)僕が黙って本を読んでいたら大人しく隣に座ってお茶を飲んでいた。

「ああ、その本、もうそんなに読んだんですか!」
今日、つい40分ほど前から読み始めた本は、もう半分を少し過ぎたところで、話の展開も一番の山場だった。

内容は、よくあるラブストーリー。
正直甘ったるくて吐き気がするほどの、甘い甘いラブストーリー。(いかにもランボが好きそうな!)
その中で、男が女に、「嗚呼時が止まってしまえばいいのに!」と定番の甘い台詞を言うシーンがあって。
大して興味もなくただ文字列をなぞっていただけの僕だったけど、その言葉は何故か気にかかって。

気づけば言葉にしていた。

「ねえ、どうなの?」
質問の答えはまだ貰っていない。
急かすように聞いてみると、ランボは少し考えた後、いつものへらへらした笑いを浮かべてこう言った。

「そうですね、時が止まってしまえば確かに雲雀さんとずっと一緒にいられるからいいけど、
時が先には進まないから。会話もなくて、雲雀さんの淹れてくれる紅茶もなくて、
こうやって静かな時間も流れないから。

俺は、時なんて止まらなくてもいいです。」

嗚呼、何で君はそうやって僕を喜ばすの。
時が止まってしまえばいいのに、だなんて思ってた僕がバカみたい。

時が止まれば、君とはずっと一緒にいられるけど、
君と一緒に過ごす時間が流れないことほど嫌な事はない。

嗚呼、僕達以外の時が止まって、時が流れるのは僕達だけでいいのに!




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