右腕
右腕は、オレの利き腕だ。
ダメツナなオレだけど、最近はそうでもないのかもしれないと思える時がある。
それは彼が隣に居てくれたから。
「獄寺君!!」
ヴァリアーがハーフボンゴレリングを狙っていて、オレたちは修行中だった。
修行なんて本当は嫌だった。
でも――。
オレは、まだ覚えている。
六道骸ひきいる黒曜中との戦い。オレの目の前で傷つく人を、いっぱい見た。
嫌で嫌で、こんなことをする骸たちが憎いと思った。
仲間まで傷つけても平気なのも許せなかった。
何より1番つらかったのは、自分の無力さだった。
期限は10日。同じ事が繰り返されないのならば……。
そう決心して、オレはリボーンと修行していた。
まさか獄寺君が独りで修行しているとも知らずに。
獄寺君は、ムチャをする。
獄寺君は勉強はできるし、決して弱くなんかない。
彼がムチャをするのは、違う、獄寺君にムチャを”させている”のはオレなんだ。
オレを”かばって”獄寺君はムチャをする。
日頃、獄寺君は「右腕、右腕」って言うけど。
オレは獄寺君がムチャをするくらいなら、
「右腕になんかならないで良いよ」
と言ってしまいそうになる。
獄寺君の無謀な修行を、オレはDr.シャマルと共に見ていた。
獄寺君は、父さんに何かを言われたようで、そっと彼自身の右手を見ていた。
彼の右手には、ハーフボンゴレリングのひとつ「嵐のリング」が、きらめいていた。
「獄寺君は、嵐だ」
オレの独り言に、Dr.シャマルは何も言わなかった。
「嵐だ。
強風が吹いて窓を叩いて、あっという間に去っていく」
こっちは嵐を恐れてビクビクしているのに、容赦なくやって来ては、去って行くんだ。
あの時のように。
獄寺君が昇進してイタリアに帰るって言った時、オレは祝福した。
転校生としてやって来た彼の唐突な帰国に、オレは笑顔でこたえた。
だって、友達だから。
祝福しなきゃって、思ったから。
行かないでよ、って言っていいのかどうか、分からなかったんだ。
オレはボンゴレの10代目になんかなる気はないけど。
獄寺君は「ボンゴレ10代目の右腕」に、なりたがっているのを、知ってるから。
その望みを、オレは叶えられそうにないから、だったら彼の昇進をただただ祝わなくっちゃって思って。
それにさ、嫌われたくないじゃん。
イタリアに行かないでよ、って言って、オレは獄寺君を困らせたくなかったんだ。
嵐に去られた後、空は透きとおるような青になる。
ねえ、獄寺君。
オレが持つ「大空のリング」は、君の持つ「嵐」が去ってしまったたら、どんな色になるんだろう。
その色は悲しい、と思うんだ。
ムチャをしないで。君は今のままでも十分「強い」んだ。
それなのに、ムチャをさせて、獄寺君の強さを損なわせているのは、オレなんだ。
「自分で気付くまで、だ」
Dr.シャマルは、そう言って獄寺君と修行を始めた。
お見苦しいとか色々言ってた獄寺君は、ほこりまみれで傷だらけで「嵐のさなか」に居るみたいだった。
獄寺君の居る嵐が過酷なものならば、オレも彼と同じ嵐に修行は違えども身を投じたい、と思った。
だって、彼はオレの右腕だから。
直接言った事はないけど、獄寺君が望むのならばオレの右腕は、獄寺君がいい。
どんなにつらくて怖くて泣きそうになっても、いっしょにそばにいて。
それは、わがままだと思う。
獄寺君が右腕、右腕って言ってるのに、都合よくつけこんでるだけなんじゃないか?とも思う。
けれど彼が「嵐のリング」
を背負った時、オレは心のどこかが、ゾクリとしたんだ。
指輪をはめる事による、意思表示。
この世に7つしかないリング。
その2つを、それぞれに持つ事になった時、オレは心のどこかが、喜んだんだ。
ボンゴレリングを通して、たかが指輪1個を通しての、つながり。
だけど実際に彼の指にある嵐のリングを見ると、まるでオレと獄寺君にきちんとしたつながりがあるように見えて。
少し、嬉しかった。
友達とは少し違った、つながり。
それは「10代目、10代目」と言われるたびに思ってしまう、友達じゃないのかな?というわだかまりを緩和してくれる気がした。
「獄寺君」
修行、ムチャしないでね、と言おうとした。
「10代目」
獄寺君は帰ろうとしたオレを呼び止め、オレをさえぎって大声で言った。
「俺、今まで自分の命、見えてなかったッスけど……。今日、見えました」
そこで彼は、ニカッと笑い、俺の手を取った。
嵐のリングをはめた彼の右手が、オレの右手の手のひらと合わさった。
獄寺君はオレの右手の甲に口付けを落とすと、やわらかな笑顔を見せた。
「もう、あなたを心配させません」
「うん……」
と答えた。
本当は、心配だよ、今この瞬間も。
だけど、獄寺君の笑顔を見て。
オレは、獄寺君はきっと大丈夫だと、思った。
だから修行、ムチャしないでねを言う代わりに、オレは獄寺君にささやいた。
「獄寺君は、オレの右腕だからね」
と。
終わり。
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2006,3,24,宵里アビ
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